はじめまして。臨床心理シランの室です。
精神科病院でWAIS-Ⅲ(WISCは16歳以下用の検査です)を数年やってきました。現在は当室で発達障害の見立てとして実施しています。その経験から以下に私見を述べてみます。
奥さんがあなたを「発達障害だと思う」と決めつけるのは、あなたのどのような言動や行動をみて言われるのでしょうか…。
モラハラや浮気や夫婦喧嘩の内容に衝動性や不注意や人の気持ちがわからない言動をみているのでしょうか…。その結果、あなたを発達障害というカテゴリーにあてはめて理解しようとしているのでしょうか…。
専門の精神科医でも大人の発達障害を診断できる医師は少ないと言われています。専門家でない一般の方が「発達障害」という言い方をするのは、流行に乗った言動としか思えません。そのように決めつけることで、相手の行動や態度を理解しようとする安易さであり、危険性も秘めています。つまり相手を傷つけ、混乱させ、不安にさせるからです。
発達障害の診断はまず、本人やご家族からこれまでの発達の過程を聴収することで行われます。とくに幼少期、児童期の対人関係や行動がどうであったかが決定的に重要になります。
本人だけの症状の説明や対人関係上の問題だけの説明だけでは、診断が偏ってしまうからです。家族(親)の本人の発達の経過の説明がなければ診断は困難をきたすでしょう。大人の発達障害の診断は、過去の聞取りが両親からできないことがあるため困難をきたします。
次に心理検査ですが有力な検査として、WAIS-Ⅲ知能検査があります。この検査をすると、知能や能力特性がわかり発達障害の傾向がかなりはっきりします。
通常病院内にいる臨床心理士が検査をして、医師に報告書を提出します。その報告書をみて、医師が被検査者(患者)に説明します。報告書には、通常以下のことが記載されていますので、医師に要求すれば報告書はもらえると思います。
1 WAIS-Ⅲ知能検査個人プロフィール…全11下位検査の各得点と分布グラフ
2,全検査IQ
3,四つの群指数のIQ
言語理解(単語・類似・知識・理解)…理解と表現の両方を含む言語能力の水準
知覚統合(完成・積木・行列・絵画配列)…視覚―運動に基づく知覚や認知の能力
作動記憶(算数・数唱・語音)…処理・操作のための記憶能力
処理速度(符号・記号)…処理のスピードの能力
4,総合所見…能力の特徴(強みと弱み)など…具体的な事例(41歳・男性)で説明します。
・全般的な知的発達水準FIQ119点は、同年齢集団の中では高い位置にある。群指数では「言語理解121点」が最も高い。視覚性流動性推理や視覚認知を反映する「知覚統合」は95点、ワーキングメモリーの「作動記憶」は101点、筆記技能などを反映する「処理速度」は96点、これらは「平均」に位置している。全体的に各能力に問題は見られない。
・「言語理解」と「処理速度」の個人内差、「言語理解」と「知覚統合」の差が大きい。これは知能の凹凸状態を表している。この個人内差の大きさが、日常生活や就労にも影響してきたと思われる。
・「言語理解」の「理解」は全検査の中で最も高い点数になっている。これは、常識的な世の中の手続き、人間の心理や行動における原因と結果などについての一般的な知識や判断力、思慮分別などに優れていることを示している。
また「知覚統合」の「絵画配列」の点数が高い。この二つの検査の得点の高さは社会的規範や社会常識を身に付けていることを示している。自閉症スペクトラムでは、この二つの点数が低くなると言われている。
・「作動記憶」の「算数」の得点の高さは、ワーキングメモリーの高さ、同時処理能力の高さを示している。ADHDは、この得点が最も低くなると言われている。
・「処理速度」の弱さは、視覚情報、素早い判断が苦手、書き取りや課題を終えるのが遅い、せかされると力を発揮できないなどの弱さとして表れる。また、思考の柔軟性や、視覚性短期記憶、さらに注意の持続などの影響も強く受けるので、「焦らせない」「十分な時間をかける」などの配慮が必要である。
・WAIS知能検査からは発達障害の傾向はみられない。能力のばらつきを理解し、バランスを保てるように努め、自分の特性の強みを活かしていくとよい。
診断より大事なものは、あなた自身が自分の性格や能力や適性をよく知ることだと思います。自分をよく知って、良い面、長所を生かす生き方を積み重ねていくことが大事でしょう。
WAIS検査を受ければ、あなたの能力特性がわかり、今後の生活に役立てることができると思います。